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メディカルコラムMEDICAL COLUMN

宮崎 郁子 東京国際クリニック / 医科副院長・消化器内科
メディカルコラム vol.50
いまこそ大切な腸の免疫力
宮崎 郁子東京国際クリニック / 医科副院長・消化器内科

小腸はテニスコート1面分もある

ご存知のように腸は食物の消化、吸収、そして排泄を担う重要な臓器です。小腸は、「十二指腸」「空腸」「回腸」という消化器官の総称で、体内で最も細長い臓器です。その長さは平均6~8mもあり、広げて見るとテニスコート1面分もあるのです。小腸の内壁には「絨毛」という小さな突起物があって、栄養を吸収しやすくしています。
一方、大腸は約1.5m。表面積は小腸の半分の100m2ほどです。

腸の大切な役割とは

小腸は胃で細かくされた食べ物を消化液でさらに分解し、栄養素を体内に吸収します。腸液や胆汁、膵液に含まれる消化酵素がタンパク質をアミノ酸に、脂質を脂肪酸に、糖質をブドウ糖にそれぞれ分解してエネルギーの元を作り出しています。さらに今日の主題の「免疫力」の70%を担っているのも実は小腸の働きといわれています。

大腸では水分調節を行い、排泄物を作ります。また、小腸で吸収できなかった栄養素やカリウム、ナトリウムの吸収も行います。その際、腸内細菌が発酵を行って、新たな物質を作り出し吸収しますが、同時に便秘などで腸内環境が悪いと腐敗も起こり、これがかえって病気の原因となることもあります。

腸内細菌の数、種類と働き

腸内フローラのイメージ

小腸には約1兆個、大腸には100兆個もの腸内細菌がいると言われています。特に回腸から大腸にかけて多種多様な菌が種類ごとに集団を形成しながらびっしりと住み着いていて、その顕微鏡像が花畑のように見えることから「腸内フローラ」と呼ばれています。腸内細菌はそれぞれ数百種類に分類することができますが、働きにより大きく3つに分けられています。

善玉菌
腸に良い働きをすると言われ、ビフィズス菌、乳酸菌が代表です。
日和見菌
どちらにも属さない菌で、腸内環境により、善玉菌に味方したり悪玉菌に味方したりしています。
悪玉菌
腸に悪い影響を与える菌でウエルシュ菌が代表です。

通常、善玉菌:日和見菌:悪玉菌の割合は、2:7:1です。健康な人の腸内では善玉菌が悪玉菌の働きを抑えています。
最近では、この「腸内細菌叢のバランスが大切」という考え方が主流です。すなわち、腸内細菌の種類が多いこと(=多様性)が重要であり、そのためにさまざまな食材を摂ることが大切だと言われています。

腸は自律神経でコントロールされている

自律神経には活動しているときに活発な「交感神経」と、リラックスしているときに働く「副交感神経」とがあり、この両方がうまく切り替わって体の調整を行っています。腸も自律神経でコントロールされているのです。
睡眠中は副交感神経が優位になり腸の蠕動を促します。睡眠不足や不規則な生活、疲れ、ストレスなどは交感神経を高ぶらせ、腸の蠕動を低下させたり様々な悪影響を及ぼします。
しっかりと休息をとること、リフレッシュできる適度な運動、深呼吸、リラックスできる音楽を聴いたりすることなどが腸の健康にも大切です。

また、「腸は第2の脳」とも言われ長い腸管神経系が走行しており、脳からの指令がなくても機能できる独自の神経回路を持っています。生命維持に欠かせない腸管の運動や分泌などを腸独自で制御していて、脳とも密接に影響し合う関係の「脳腸相関」もいま注目されています。

感染防御となる免疫機能を担う腸

さて、免疫とは「疫病から免れる」という意味の生体がもつ重要な働きです。感染症に一度かかると2度目は軽く済んだり、かからなかったりすることで、腸には免疫に関わるシステムが数多く備わっています。
そのメカニズムは少し難しいのですが、小腸の上皮細胞の合間にはパイエル板というリンパ小節の集合体があって、リンパ球やマクロファージが存在します。体内に侵入した細菌やウイルスなどの外敵が来た際には異物とみなして攻撃を開始。体を正常に保つよう維持するシステムとなっています。

一方、大腸には免疫系の細胞は少なく膨大な数の腸内細菌が存在しています。大腸内は嫌気性菌(生育に酸素を必要としない細菌)であるビフィズス菌が生育しやすいようになっており、ビフィズス菌は糖を分解して乳酸と酢酸を生み出しています。
また、強殺菌性の酢酸は腸管のバリア機能を高め、病原菌の増殖を抑えます。100歳以上の超高齢者の腸内細菌叢にはこのビフィズス菌の占有率が高いという報告もあり、ビフィズス菌のサプリを摂ることもお勧めします。

善玉菌を生かす酪酸も最近注目されています。酪酸は腸内の酸性を保ち、蠕動運動を活発にして酸性を嫌う悪玉菌の繁殖を抑制し便通異常を改善することができます。さらに酪酸は、制御性T細胞という炎症やアレルギーを抑える免疫細胞を増やす働きもあるのです。

腸内細菌叢の多様性が崩れると…

簡素な食事や加齢、抗生剤などの薬、ストレスなどが原因で腸内細菌叢のバランスが崩れてしまうと、腸内腐敗が進行し、健康に有害な物質(アンモニア、フェノールなど)が増加します。そうなると、便秘や下痢、肌荒れ、アレルギー、慢性疲労、生活習慣病、脳機能障害などを引き起こして生活に支障を来すようになります。
さらに腸管免疫力が低下すると、風邪をひきやすくなったり、肥満、アレルギー、炎症性腸疾患、認知症や発がん物質の生成にも関与していることが最近の研究によってわかってきました。

腸管免疫力を上げるには…

腸管免疫力を上げるには食材をはじめ、副交感神経優位のリラックスした生活が欠かせません。

腸内細菌のエサになる食物繊維や発酵食品を摂ること 水分もしっかり摂って体温の維持に努めること 睡眠を十分にとること 細菌の入口となる口腔ケアを怠らないようにすること

特にいま注目されているプロバイオティクスやプレバイオティクスは医薬品のようにシャープな作用はありませんが、長期間取り続けることで、緩和な効果が期待できるので継続していただければと思います。
特に新型コロナウイルスによる感染予防が叫ばれる今日、日々の「腸活」で私たちに備わっている免疫機能を十分に発揮させる生活をめざしていきたいものです。

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