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メディカルコラムMEDICAL COLUMN

高橋 通 東京国際クリニック / 医科院長・循環器科・抗加齢医療
メディカルコラム vol.52
血液・お小水は身体からの情報源
高橋 通東京国際クリニック 院長・循環器科・抗加齢医療

健康診断や人間ドックでは必ず血液検査や尿検査を実施します。予防医療の観点からも、私たち医師は身体の情報源である血液や尿から測定されるさまざまなデータを総合的に判断して、重大な疾患につながらないよう日々診療を行っています。今回は、新しい年を迎えるこの季節に、日頃の生活習慣などを見直すきっかけとして、身近な血液や尿の検査についてお話いたします。

血液検査でわかること

血液検査では大きく分けて下記の項目の検査が行われ、各臓器の働きや代謝の状態、感染などの状況が数値で明確になります。検査結果で、基準値よりも高値の場合は“H”、低値の場合は“L”で表されますので、気になる数値がある場合は医師もしくはスタッフにご相談ください。

肝臓系の検査

肝臓は上腹部の右側にあり、重さは大人では1,200~1,500gで人体の中では最も大きな臓器です。働きはタンパクの合成・栄養の貯蔵、有害物質の解毒、胆汁の生成の3つです。血液検査では、血液中の総タンパク、アルブミン、AST・ALTやγ‒GTPなどの酵素を見ることにより、栄養障害、脂肪肝、アルコール性肝炎、薬剤性肝障害などの有無を調べることができます。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれています。それは再生能力が高いため、障害を受けてもすぐには自覚症状となって現れず、異常の発見が遅くなってしまうケースが多いからです。日頃から血液検査で肝臓の働きをチェックし、アルコールや過剰の糖質などを控える指標にすることができます。

腎臓系の検査

腎臓は老廃物の排泄だけでなく、体内の水分調節を行っている重要な臓器です。さらに塩分やカリウムなどの「電解質」と呼ばれる物質の濃度を調整したり、血圧の調整なども行っています。毛細血管の塊である糸球体が老廃物を濾過しています。身体に必要な血液成分やタンパク質は再び血液に返し、不要な老廃物は尿細管を通って尿として排出されます。血液検査では、クレアチニン(Cr)濃度、尿酸などを測り、腎機能が低下していないか、高尿酸血症(この状態が続くと「痛風」になる)が起きていないかなどがわかります。特に検査項目でeGFR(推算糸球体濾過値)という値がありますが、これはクレアチニン値を性別、身長(体表面積)で補正して算出したものです。基準値より低値ではCKD(慢性腎臓病)が疑われます。

脂質系の検査

メタボリックシンドローム(生活習慣病)の代表的な指標がこの脂質系の検査です。体内には4種類の脂質(中性脂肪、コレステロール、リン脂質、遊離脂肪酸)が存在します。これらの脂質は、それぞれ身体を健康に保つ上で重要な役割を持っています。すべて一定量体内に維持する必要があります。血液検査では、HDL(「善玉コレステロール」とも呼ばれ、LDLを回収する働きがある)、LDL(「悪玉コレステロール」のこと。これが過多になると血管壁に蓄積し、動脈硬化を進行させ、脳梗塞や心筋梗塞を起こす可能性が高くなる)、中性脂肪(食べた脂肪や糖質が血液中に入り、それらを材料として肝臓で合成される)の値を調べます。数値の異常により将来的に脳梗塞、心筋梗塞などの疾患を発症する危険性を疑う指標になります。特に検査項目「Non-HDLコレステロール」は、総コレステロール値から善玉コレステロール値を引いた値で、中性脂肪が豊富なリポ蛋白や脂質代謝異常により生じるレムナント(動脈硬化を起こす)などを含んでいるかの指標になります。

糖代謝系の検査

予備軍を含めると国内に罹患者1,600万人を超えると言われる糖尿病。検査項目は血液中のブドウ糖値を表す「血糖値」と、HbA1c(ヘモグロビン・エーワン・シー)。血糖値が高値の場合は糖尿病、すい臓疾患などが疑われます。また、HbA1cは過去1~2か月の血糖の平均的な状態を反映します。

血球系の検査(血液学的検査)

赤血球、白血球、血小板は、それぞれ異なる働きをもっています。赤血球は血管の中をめぐり、身体の隅々に酸素や栄養などを送り届けています。白血球は、細菌やウイルスを攻撃し、血小板は止血をしてくれます。血液検査では貧血の有無や細菌感染などの炎症、白血病などの血球のがんを疑う根拠とします。

感染症系の検査

最近の新型コロナウイルスで注目されている感染症。ウイルスなどに感染すると血液中に反応物質が増加し、数値が高くなります。血液検査ではCRPを測り炎症の状態を調べます。特に心臓ドックで測る「高感度CRP」は、動脈硬化や歯周病発見に役立つマーカーです。さらに、梅毒や肝炎ウイルスによる感染の有無、麻疹・風疹抗体なども血液で調べることが可能です。
このほかにも血液には、様々な疾患につながる重要なマーカーがあります。

前立腺マーカー

「前立腺特異抗原」の略語であるPSAは前立腺の細胞から分泌されるタンパクです。基準値より高いと前立腺肥大前立腺がんなどが疑われます。(AGAに対する発毛薬を服用されている方は、半分の値で結果が出ますので要注意です。)

RLPコレステロール値

動脈のプラーク(血管の内側にできるこぶ)の7割をこのRLPコレステロールが占めていることが動物実験で分かっています。

EPA/アラキドン酸(AA)比

この値が0.4以上であれば動脈硬化を抑制し脳梗塞や心筋梗塞のリスクを低減させ得るという指標です。魚を積極的に摂っているかといった食生活の一面がこれで明確になります。

血液検査は「生化学検査」、「免疫学検査」、「血液学検査」、「内分泌検査」など、10以上のカテゴリーに分別され、2,000以上の項目数があります。当クリニックの人間ドックでは、一度に採取して身体に負担のかからない血液量などを考慮し、膨大な血液検査項目の中から、人間ドックでみるべき項目を選択しております。

尿検査でわかること

血液と同様、尿からも身体の様々な情報を得ることができます。最近、「尿から身体のどこかにがんがあることがわかる」という検査について発表が行われましたが、これからの精度の向上が期待されています。尿検査では、尿タンパク、尿糖、尿潜血などを調べ、腎臓や尿路の状態、下垂体や副腎疾患などの診断の一助としています。尿検査では「中間尿の採取」が勧められます。早朝尿の最初と最後の尿は採らず中間の尿を採取することが理想的です。これは尿道や陰部の雑菌の混入を防ぐことが目的です。

今回ご紹介した検査は、ほんの一部ですが、生活習慣病をはじめ、さまざまな疾患発見の端緒として捉えることができ、診療には欠かせない有用な検査です。
「(血液で調べる)一生変わらない遺伝子検査」

前述で、尿でがんがわかる検査についてお話しましたが、ここでは、さらに詳細が分かる、がんのリスクを調べる「がん遺伝子検査」と、生活習慣病のリスクを調べる「生活習慣病リスク検査」をご紹介します。ヒトの遺伝子の配列は、全てのヒトに違いがあり個人差があります。この遺伝子の並びの違いを調べることで、がんの発症リスクや基本的な体質、動脈硬化などの生活習慣病を起こすリスクを知ることができます。がんは、がんになりやすい体質(遺伝子リスク)をお持ちの方が、そのがんになりやすい生活習慣(環境因子)を続けることで生まれたがん細胞が、時間をかけて増殖して発病に至るとされています。「がん遺伝子検査」では、がんを起こしやすくする関連遺伝子を解析し、がんのリスクとそのがんリスクを下げるための生活習慣をご提案いたします。また、「生活習慣病リスク検査」では、12項目、61種類の遺伝子を測定し、先天的な生活習慣病リスクを調べます。検査を受ける方それぞれの体質に応じた運動習慣や栄養素、避けるべきライフスタイルなどをご提案いたします。
ご自身の体質を知り、日々の健康管理にぜひお役立ていただければと思います。

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